Patrick Grahlの歌唱はまるでペーター シュライアー!

1988年~2006年までThomanerchor(トーマス教会合唱団)に所属し、2016年にバッハ国際声楽コンクールで優勝と、まさにバッハ歌唱のスペシャリストとして研鑽を積む傍ら、
オペラではヘンデル、モーツァルトから、トリスタンとイゾルデの水夫、エレクトラの召使といった、ドイツオペラのリリックな役と古典作品をレパートリーとしているようです。
バッハのスペシャリストらしく、癖がなく真っすぐでありながらも柔らかさと芯の強さを兼ね備えた声は、これぞドイツ作品を歌うに相応しい声と言えるのではないかと思います。
ヘンデル エイシスとガラテア Happy, happy we
ソプラノ Sophie Junker

恐らく2017年の演奏と思われます。
英語歌唱ではありますが、言葉にも技巧的なパッセージにも硬さがなく、
アンサンブルの美しさが際立つ演奏ですね。

 

 

【歌詞】

Wenn durch die Piazetta
die Abendluft weht,
dann weißt du,Ninetta,
Wer wartend hier steht.
Du weißt,
Wer trotz Schleier und Maske dich kennt,
Wie die Sehnsucht
im Herzen mir brennt.

Ein Schifferkleid trag’ ich
zur selbigen Zeit,
und zitternd dir sag’ ich:
das Boot ist bereit!
O komm jetzt,wo Lunen
noch Wolken umzieh’n,
laß durch die Lagunen,
Geliebte,uns flieh’n!

 

 

【日本語訳】

広場を通り抜けて
夕べのそよ風が吹くときには
そのときは分かってるよな、ニネッタ
誰がここに立って待ってるのかを
お前は分かるよな、
誰がヴェールやマスクをしててもお前のことが分かるのかを
どんなにこの憧れが
俺の心の中で燃えているのかを

水夫の服を俺は着て
その時になったら
震えながら俺はお前に言うぜ
ボートの準備はできてる!
さあ今すぐ来いよ、月が
雲で覆われているうちに
この回潟湖を抜けて
恋人よ、漕ぎだしていくぞ!

 

 

ペータ シュライアーにも指導を受けていたということで、
どことなく歌い回しが似ている気がしますね。
全体的に上品で清潔な歌唱でなのですが、

「O komm jetzt,wo Lunen noch Wolken umzieh’n」
(さぁ今すぐ来いよ、月が雲で覆われているうちに)

という部分では、流石に太めの声を上手く使って表現しています。
何がシュライアーに似ているのは歌い回しだけでなく、鼻に入り易い癖まで似ていて、特に「 jetzt」の”ye”で過剰に鼻に入ってしまうのは気になりますね。

どうしても鼻に入ってしまうと、ピアノの表現ではあまり気にならないのですが、
フォルテになると結局は喉声っぽくなってしまって響きも硬くなってしまうのが勿体ない。

 

 

 

 

Wヴァイスマン Klage

 

ヴィルヘルム ヴァイスマン(ヴァイズマン)は1900~1980ドイツの作曲家、音楽評論家とのことです。
恥ずかしながら知らなかったので、幾つか作品を聴いてみた感じとして、合唱曲、独唱曲、ピアノ曲などがありましたが、どれも近現代の作曲家でありながらも聴きやすい作品ばかりという印象を受けました。

さて、こちらの演奏はグラールの良さが良く見える演奏ですね。
カンタービレな表現では発声的に鼻につく声になってしまいますが、こういう喋るように歌う作品では硬さもプラスの要素になり、全くヴィブラートのない声と相まってとにかく歌の上手さが際立つ演奏になっているのではないかと思います。

 

 

 

 

バッハ ヨハネ受難曲 Mein Jesu, ach! Dein schmerzhaft bitter Leiden

 

バッハのスペシャリストの実力が遺憾なく発揮されているのがこの演奏。
充実した中音域と軽やかな高音、言葉とリズム感のキレの良さ。
どこをとっても理想的と言える演奏ではないかと思います。

ロマン派の歌曲やオペラでは高音の響きが痩せて鼻に入る感じがマイナスの印象を与えることもありますが、ファルセットに近い高音で歌うことを想定して書かれたロッシーニ以前、特にバロックでは逆に高音が太くならない方が美しく聴こえます。
同じ曲ではありませんが、ヨハネ受難曲からシュライアーの歌唱と比較しても、私はグラールの方が上手いと思います。

 

 

 

Peter Schreier

グラールは高音が鼻に掛かっていても、そこに抜けている声なんですが、
シュライアーは押してしまっているので、低音でははっきり言って変な声です。
響きの奥行、フレージング、どこをとってもヨハネ受難曲の演奏で比較する限りはシュライアーよりグラールは上だと思います。

とは言っても、シュライアーは録音年代で声が良かったり悪かったりするので、一概にグラールの方がシュライアーより上。とは言う訳ではありませんが・・・。

 

まだまだYOUTUBEに音源がそこまでありませんが、
こうして聴いていて頂ければ、いかにもドイツの良いリリックテノールを体現したような歌手だということがお分かり頂けるかと思います。
ただ、ちょっと潔癖過ぎてリートは古典派~ロマン派より、近現代作品の方が合いそうな気もしますが、これからどのような声になっていくのか注目していきたいと思います。

 

 

CD

 

 

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